落書きと店主の攻防

白いものを見ると何か書きたくなるのか、無地のものを見ると柄を描きたくなるのか、店のシャッターや壁など町のあらゆる場所に落書きを見かける。もし、こんな店の人がいたら、落書きは変わるだろうか。

記事掲載日:2017.07.04(この記事は 2019.07.28に修正されました)

Aが店を開けに来るとシャッターに落書きされていた。
何を描いたかわからない。殴り書きのようなものだった。まるでボールペンを買う時の試し書きだ。Aはため息を一つ吐くとシャッターを開けた。その夜、Aはシャッターを閉め、上から白いペンキを塗って帰った。次の日は定休日だったので、店に出て来たのはその翌々日だった。

まただ。
また、何を描いたかわからない落書きがあった。

せめてもっと意味のあるものを描いたらどうだ。
Aは腹ただしさを覚えながらシャッターを開けた。その日の夜、シャッターを閉め、Aは張り紙を貼った。

次の日、店に来た時には何の変化もなかった。
Aは一度、紙をはがし、夜閉める時に再び貼って帰った。次の日も次の日も同じようにして帰った。休みの日の翌日、試し書きよりはましなものが描かれていた。だが、何を描いたかわからない。Aは帰りに張り紙を貼った。

次の日、店に来るとシャッターに黒いスプレーがかけられていた。
落書きを消したようだった。評価に頭に来たのかもしれない。Aは帰りに白いペンキを塗り元に戻したが、張り紙は貼ったままにしておいた。

翌朝、Aはほんの少し驚いた。
今まで黒一色だった落書きに色がついた。花か何かだろうか。1メートル四方の大きさで描かれている。点数はそれほどつけられないが、前よりはいい。落書きをほめる気はないが、一生懸命描いたのだろうという雰囲気は伝わってくる。Aは☆を一つつけて帰った。

Aは落書きが書き足されていても足されなくても必ず、張り紙を貼って帰った。白いペンキを塗ることもしなかった。すると2週間ほどたった休み明けの日、シャッターの下半分が色とりどりの何かが描かれている。以前描かれたものは一度消したようだった。何を描いたのかはわからないのだが、Aにはお祭りで見かけるヨーヨーのようにみえた。。

その日の昼、数軒隣の酒屋の主人がやって来た。
「何、Aさんのところシャッターの絵、頼んだの? 花畑の絵だろ」
どうやら酒屋の主人には花畑に見えたようだ。Aは帰りに張り紙を貼った。

少し甘い気もしたが、見る人によって違うものに見えたのだ、これくらいの点をつけてもいいだろう。Aはシャッターを眺めた、上半分は白いままだ。

三週間後、突然、その空白は埋まった。
何やら惑星のようなものが描かれている。宇宙だろうか。Aはふと酒屋の主人には何にみえるだろうかと思った。Aは鼻歌交じりに張り紙を外し、シャッターをあけた。Aは店の準備を終えると帰りに貼って帰る点数を考えていた。まだ右半分残っている。何が描かれるのか、落書きの相手が待ち遠しい気がした。

あとがき
時折、すごい場所に書いてある落書きを見かけることがある。
ある意味、命がけだ。落書きをする方が100%悪いのだが、「落書きは犯罪です」と書かれているのをみると、何もそこまで、という気持ちになる。だが書かれる方はたまったものではない。それが試し書きのような落書きならばなおさらだ。そう思ったときに思いついた話。こんなことがもしあったら、毎日道を通りかかるのも楽しいだろうな。

 

松江ブログ(M2エムツー)

HOME > CATEGORY LIST > つぶやき隊 > ショートストーリー > 落書きと店主の攻防

ページトップへ