何冊もの自己啓発本を読んでもダメな人

一時、自己啓発本にはまった時があった、仕事に役立てようと思ったものもあれば、人生に役立てようと思ったものもある。何もかも嫌になって、嫌になったときに読むという内容の本もよく読んだ。しかし、読んだときは「よし」と思うものの、しばらくするとまた新しい本に手を出すという状態だった。そんな私が最後に出会った自己啓発本。

記事掲載日:2017.01.07(この記事は 2019.06.15に修正されました)

「お、久重、また本を読んでいるのか。今度は何の本だ」

部長の長谷川に声をかけられ、久重は肩をすくめた。

もう何冊この手の本を読んだかわからない。

目標の立て方や心の持ちよう、整理の仕方、いわゆる自己啓発本を何冊読んでも自分の悩みは解消されない。

「若い頃は俺もよく読んだな」

「部長が、ですか」

久重は驚いた。部長の長谷川は叩き上げで、社内でも実力ナンバーワンとまで言われている存在だ。

「驚くことないだろ。誰だってはじめはどうしたらいいかわからないものさ。毎日、覚えることはたくさんあるしな、人に相談しても悩みが解決しないときは、手あたり次第に本を読んだよ」

「それで、どうでした」

久重の質問に長谷川がおかしそうに笑う。

「どうにも、という感じだな」

「どうにも?」

久重が眉を寄せる。

「読んでいるうちに思ったんだよ。目標を立てて、そこに向かっていくことで目標を達成できる人間もいれば、目標を立てても到達できず挫折する人間もいる。後者なら目標を立てない方がいい。そう、やり方は人それぞれだ。たまたま自分に合う方法に出会うこともあるが、出会わないこともある。俺は後者だったら、自分が思うようにやればいいんだと思うことにしたよ。そう思えるようになったということでは、読んだ意味があったな」

久重は重い息を吐いた。

その「自分が思うやりかた」がわからないのだ。だが、それを口には出さなかった。長谷川がそのことを察知したように続ける。

「おまえがどちらの人間がは、わからない。もしかしたらそのどちらでもないかもしれないしな。それはおまえ自身にしか見つけられない。まぁ、いろいろやって読んで、やってみるしかないってことだな」

久重の顔に長谷川が肩を叩く。

「そんな顔をするな。人のやり方を真似してダメだったとしても落ち込むことはない。おまえはその本の人間と環境も仕事も違う。この手の本を読むと自分の仕事や生活が劇的に変わるかもしれないと期待するかもしれないが、そんなことはない。いや、あるかもしれないが、ない方が多い。大切なことはそういった本や経験を通して、昨日より今日、今日より明日、ほんの少しよくなればいいってことだよ」

長谷川はそういうと自分のデスクにも戻っていった。結局、自分が何をしたらいいのかわからないままだが、久重はほんの少し、心が軽くなった気がした。

私にとって最後の自己啓発本

何年間か自己啓発本を読みあさったことがあった。

もともと夢や目標を持ったことのない人間だったので、それらを持ってみようと思ったのだ。だが、何を試してもピタリとこない。

そんなとき本屋で偶然に一冊の本と出会った。

何気なく本屋の中を歩き回っていたとき、店の端の方で平積みになっていた「仕事は楽しいかね?」という本だ。

実際の話をもとに書かれた物語長の本で、今まで読んだどの自己啓発本よりもおもしろく、自分に合っているという気がした。読み終えて、私にとってはこれが最後の自己啓発本になるだろうとも思った。実際、それ以降、自己啓発本は購入していない。

もっともそれが本のおかげか、自己啓発しなくなったからかはわからない。もし、私と同じように何冊読んでも自分に合う自己啓発本がに遭遇しないという人は、立ち読みしてみてほしい。小説仕立てになっているので、自己啓発本が苦手という人でもすらすら読めると思う。

私は立ち読みして先が気になって仕方がなく購入した。

自己啓発本を何度も読み返したことはないが、この本は読み返してしまった。おそらく、つまずくたびに読み返すだろう、と思う。何度も読み返したくなる自己啓発本。人それぞれ個人差があるので、合わないと思ったらご容赦。

仕事は楽しいかね?
デイル ドーテン (著)、野津 智子 (翻訳)

仕事は楽しいかね?

出展:Amazon

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