消臭料理店
子どもの頃、今のように匂いに対して敏感ではなかった。というより気にしたことがなかった。いつから日本人は、これほど匂いを気にするようになったのだろうと思うことがある。無臭にしようという動きは嬉しいのだが、匂いを匂いでやっつけてしまおうという考えには賛同できない。よかれと思って振りまく匂い、本人は「香り」と思っているかもしれないが、他人にとっては体臭と同様の「匂い」でしかないこともある。特に飲食店では。
子どもの頃、今のように匂いに対して敏感ではなかった。というより気にしたことがなかった。いつから日本人は、これほど匂いを気にするようになったのだろうと思うことがある。無臭にしようという動きは嬉しいのだが、匂いを匂いでやっつけてしまおうという考えには賛同できない。よかれと思って振りまく匂い、本人は「香り」と思っているかもしれないが、他人にとっては体臭と同様の「匂い」でしかないこともある。特に飲食店では。
記事掲載日:2016.08.27(この記事は 2019.07.28に修正されました)
「あれ、先輩もしかして昼に餃子食べました?」
梅宮は食後の缶コーヒーをあけたところで、後輩の定吉に声をかけられた。
「ああ、中華飯でラーメン餃子な」
「ですよねぇ。ニンニク、結構、臭っていますよ」
梅宮は眉を寄せた。昼に何を食べようと自分の自由だ。臭いを気にして好きなものを我慢するなど、あり得ない。
「いいんだよ」
「僕はいいですけどね。今の時代、もてませんよ」
定吉のにやにやした言葉に梅宮は定吉の頭をこづいた。
「もてるための食事なんて、俺はしないんだよ」
「先輩、古いですねぇ。」
梅宮の渋い顔に、定吉が笑顔を浮かべた。
「あっ、そうだ。先輩、いい店がありますよ」
梅宮は返事を返さなかった。返事をせずとも定吉は話を続ける。
「消臭料理店、知っています?」
「しょうしゅう料理店? なんだ、そのまずそうな店の名前は」
「店の名前じゃありませんよ。入り口と出口に消臭ドアがついている店のことです」
梅宮は定吉に説得され、翌日、消臭料理店に行くことになった。自動ドアを開けて、店の中にはいると、さらに電話ボックスのような箱があり、皆、そこを通り抜けている。
「大丈夫。先輩も通り抜けてください」
定吉に押されて梅宮がボックスに入る。シューっという音がするが、特に煙のようなものが出てくるわけでもなければ、何らかの匂いが出てくるわけでもない。梅宮はやや拍子抜けして席につくと麻婆豆腐定食を注文した。
「あれ、一体、なんだったんだ?」
「消臭スプレーですよ。ほら、男はこの時期、汗くさいし、女の人は香水の匂いがすごい人もいるじゃないですか。それが、あそこを通り抜けるとあら、不思議。臭いが消えちゃうんですよ。その証拠に店の中、料理の匂いしかしないでしょ」
確かに、女性はいるが香水の香りはしない。
定吉に頷いて見せたものの、女性がいるからいつも香水の香りが漂っているということもない。梅宮にはそれほど違いがわからなかった。
「それじゃあ、行きましょうか」
「おまえ、あんなにニンニク食べて平気なのか。自分でもてないとか言っていたじゃないか」
「大丈夫ですよ」
梅宮の言葉に定吉が笑顔を見せる。
「あ、先輩そっちじゃありません」
来たときと同じ扉から出ようとして梅宮は呼び止められた。
「こっちですよ。まず、ここで口の中にスプレーするんです」
定吉はそういって壁から水平に飛び出しているノズルの前で口を開け、スイッチを押した。梅宮は子供の頃のプールを思い出した。シャワーの側に垂直に伸びた目を洗う水道、壁から突き出すような形で設置されている、あの蛇口とそっくりだった。ただ出てきたのは水ではなく、シューっという音と風だけだった。
「そのあとは、出口用ボックスから外に出るんです」
梅宮は言われるままに再びスプレーを浴び、外に出た。
「ね、すごいでしょ」
定吉は得意げな顔をしているが、なんのことかまったくわからない。
「気がつかないんですか?!」
定吉にだめだなぁという顔をされ、梅宮は眉を寄せた。
「ほら、僕、ニンニクの匂いしていないでしょ」
定吉に息をかけられ、梅宮は反射的に身体をそらした。だが、確かに、あれほど食べたニンニクの臭いがしない。梅宮の麻婆豆腐定食にはニンニクが入っていなかったので、匂いがわかるはずだった。
「これから、こういう店が増えますよ」
定吉が嬉しそうに看板を見上げる。梅宮はそこまで必要だろうか、と思った。しかし、あって悪いものでもない、とも思う。
梅宮は、日本人がいつからこれほど匂いに敏感になったのかと複雑な気持ちで歩き始めた。
松岡修造氏のCMでもお馴染みなので、言わずもがなですが、このシリーズは様々な場面に特化してバリエーションがたくさんある。個人的には、匂いを消すための匂いも苦手なので、無効タイプは非常にありがたい。
匂いは苦手なんだけど、「おひさまの香り」のフレーズに負けて、ついつい布団用の収集スプレーにはこれをつかってしまう。よくよく考えてみると「おひさまの香り」ってどんな匂いだろう?と思うんだけど、スプレーするとそれそれと思ってしまう。思っている感じの匂いなんだろうな。
99.9%除菌。除菌・除去、この文言に弱い。ついつい、使ってみたくなる。除菌が目に見えるわけではないので、何を使っても同じきもするのだけれど、やっぱり言い切られると弱い。タバコに強いタイプもあり、会社でエアーカーテン導入前はよく使っていた。
個人的には服のミストを使用している。無香料だし、しわも伸びる。ただ、しわが伸びるという印象は薄かった。一度、友だちに貸したら、これでもかというくらいスプレーしていた。次の日、しわが見事に伸びていた。そのとき、自分のスプレーの回数がものすごく少なかったのだと知った。
ちょっとずれますが、トイレの無効消臭スプレー。デザインがトイレの消臭剤ぽくないこともあり、重宝している。人の匂いは気になるので、大小どちらでもさっと一振り? 匂いがきついときは(苦笑)、長めにスプレーすると結構素早く消える。音は若干するけど。音なしのスプレー出たら売れるかな。
こと香水や化粧品の匂いに敏感で、隣の人から香水の香りがぷんぷんしている場合、我慢との戦いになる。それが飲食店ならば、食事が台無しだ。香水の香りで味がわからなくなってしまう。(一度、うなぎ屋で香水の匂いがしていたときは最悪だった。ただしその時の犯人?はおじさんだった)。匂いというと、にんにく、体臭、生乾き、靴の匂いなど嫌な臭いを連想するけど、人にとっていい香りが、ほかの人にとって嫌な香りとなることもある。
飲食店だけでなく、電車の中などの乗り物や公共の場に、自動的に臭いが消されるような設備があったら便利だろうなと思うことがある。どんな匂いでも消すことができれば、匂いを気にしないで済むようになる。もっとも電車に乗るたびに香水の匂いが消されたら、つけている人はたまらないかもしれないけど。
今回は、ショートショートにちなんで、お店に置いていそうなシリーズから抜粋してみた。焼肉屋や飲み屋系のお店など、長時間いることで匂いが服につくお店にはおいてあることが多い。車に乗る人は車に置いている人もいると思う。ブレスケア系の商品もかなり出ているけど、使ったことがないので、それはまた別の機会に。
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