看護用パワースーツ

高齢化社会とは総人口に占める65歳以上の人口が増大した社会のこと。日本は1990年後半に高齢化社会に突入、2035年には3人に1人が高齢者になるといわれている。すでにニュースで老老介護などの言葉も聞かれ、介護の現場の現状は厳しく、今後さらに厳しくなることが予想される。

記事掲載日:2016.08.16(この記事は 2019.06.15に修正されました)

「介護用ロボット増えましたね」
定吉がブースの中を歩きながら、驚いた声を出す。定吉と梅宮は介護品を扱うフォーラムに来ていた。
「看護する方も高齢化しているからな。体の負担を軽減するためにもロボットは必要だよ」
「体験してみませんか?」
少し大きめのブースで二人は声をかけられた。ブースにいる女性がベッドを手で指し示す。
「やってみましょう」
定吉が笑顔を見せてベッドに横になる。梅宮が眉を寄せていると、ブースの女性が梅宮にスキーウエアのような上半身のみのウェアを渡した。
「着てみてください」
「ロボットじゃないんですね」
定吉が横になりながら、声をかける。ブースの女性が笑顔を見せた。説明はない。とにかく着てみろということだ。梅宮はウェアを受け取り、着用した。思っていたより生地が固く、重かった。
「ではスイッチを入れますね」
ブースの女性がそういって左手の腕にあるボタンを押す。中から小さな音が聞こえ、ウェアの中を何かが通り抜けるような感覚が起こる。十数秒で「ピーッ」という音が鳴った。
「では、こちらで横になられている方を持ち上げてみてください」
梅宮は定吉を見て渋い顔をする。自慢ではないが力がある方ではない。定吉の身長は178㎝、スポーツをやっていたので体格はがっちりとしており、70~80kgはある。とても抱きかかえられるとは思えない。
「大丈夫ですよ。安心してやってみてください」
ブースの女性が笑顔で促す。梅宮は無理だと思いながら、定吉の体の下に腕を差し込んだ。次の瞬間、梅宮は驚いて女性の顔をみた。定吉の体はベッドから離れ、自分の腕の中で宙に浮いている。

介護ロボットの開発が進み、介護する人の体への負担を軽くし、介護される人の心の軽減をはかるよう、介護用ロボットが進化している。ロボットもよいが、自転車を漕ぐことをアシストする電動自転車があるのだから、人の動きをサポートし補強することも可能なのではないか。

そんなことを考えていた私。だが私が考えていることなどとっくに考えている人がいた。テレビでちらっと見たのだが、人の動きを補強するスーツのようなものが開発されていた。私はこれを勝手にパワースーツと呼んでいる。ロボットではなく人が着るものだ。もしその開発が進み、実用化され、もっともっと軽量化されたなら、介護というものの認識は大きくかわることになるだろう。たとえば上半身のみのタイプ、全身タイプなど、年齢や性別に合わせ、腰や膝の力も補強する。体への負担がかからなければ介護する側にとってはありがたい。また、ロボットでは不安、物の扱いされている気がするなど、人の手で介護してもらいたいという声にもこたえられる。

そして何より、ロボットとパワースーツが大きく違う点は、本人の力を補強するという点だ。最初は介護する側の人間が着るかもしれないが、そのうち進化すれば介護される側の人が着ることで、自分自身で起き上がったり、歩いたりできるようになるかもしれない。自分の知らないところであらゆる技術が進歩している。思うだけでなく形にしようとしている人がいること。それがなにより素晴らしい。

松江ブログ(M2エムツー)

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